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クローズアップ藝大 - 第四回 前田宏智 美術学部工芸科(彫金)教授

連続コラム:クローズアップ藝大

連続コラム:クローズアップ藝大

第四回 前田宏智 美術学部工芸科(彫金)教授

クローズアップ藝大では、国谷裕子理事による教授たちへのインタビューを通じ、藝大をより深く掘り下げていきます。万博体育APP官方网_万博体育manbetx3.0の唯一無二を知り、読者とともに様々にそれぞれに思いを巡らすジャーナリズム。月に一回のペースでお届けします。

>>過去のクローズアップ藝大

第四回は、美術学部工芸科(彫金)教授であり、昨年、日本伝統工芸展最高賞である日本工芸会総裁賞を受賞された前田宏智先生。令和元年6月にお話を伺いました。


金工棟は美術学部キャンパスの一番奥。前田先生の研究室は2階、部屋の前の壁に飾られている可愛い顔をした鹿の頭に出迎えられました。扉を開けて一歩足を踏み入れると何十年か前にタイムスリップして突然、道具箱の中に迷い込んだような空間。

部屋の半分ほどは畳が敷かれ、先生が仕事をするのに使っている高さ30センチほどのけやきの大木から作られた木台がいくつか置かれていました。畳の上で叩いたり、削ったり、彫ったり、力を入れてもけやきの台は重くて動かないからいいのです、とおっしゃいながら長年使いこんでいる木台を椅子代わりに勧めてくださいました。


世界に誇る日本の伝統工芸を生み出す工具

国谷

研究室は畳の部分もあるのですね。

前田

はい。昔の藝大の彫金研究室が畳だったことに由来しているんです。畳だからこそできることも多いんですよ。


美術学部の前身、東京美術学校彫金科教室(1902年頃)

国谷

見慣れない道具がたくさん並んでいます。壁側にあるのは金槌でしょうか。

前田

そうです。私は金属を彫る彫金(ちょうきん)が専門です。それと同時に金属を成形するために金属を叩く作業も行います。金属を鍛えると書いて鍛金(たんきん)と読みますが、彫金と鍛金、どちらも行います。

壁側にある金槌や当金(あてがね)は鍛金の道具です。作りたい形に合わせて、金槌や当金の大きさを変えていきます。


当金(あてがね)

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そして、金属を彫るのに欠かせない道具「鏨(たがね)」です。こちらも小さいですが、何種類も形があって、作りたいものに応じて変えていきます。


鏨(たがね)

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総裁賞を受賞した作品は、従来と全く異なるやり方で装飾

国谷

繊細な作品は、このような道具を使い分けて作られているのですね。作品を作る時は分業などをせずに、1人でお作りになるのですか?

前田

はい。分業はありません。工芸専攻の中でも、彫金は最初から最後まで自分で意図的にコントロールできるものなんです。例えば陶芸は窯入れの時、火の力全てをコントロールできる訳ではありません。ですが、彫金は金属を温めながら伸ばしていき、その温度も自分でコントロールしなければいけません。

こちらが「日本工芸会総裁賞」を受賞した「四分一象嵌打出銀器(しぶいちぞうがんうちだしぎんき)」です。


「四分一象嵌打出銀器」(平成30年 第65回日本伝統工芸展日本工芸会総裁賞受賞)

国谷

実際に拝見するのと、写真で見るのとは重厚感が違いますね。伝統工芸でありながらも大変モダンに見えます。

前田

33歳の時、日本伝統工芸展で入賞した時は、器の形を完成させた後に線を彫り込み精緻な模様を付けました。これが金属に装飾する場合の一般的な方法ですが、今回は、全く違うやり方に挑みました。実際に作品を見ていただくとわかると思いますが、この作品は先に模様を彫り、その後で金属を伸ばしています。彫った模様が、金属を伸ばすことによって縦に伸びたり、横に流れたりする。それを計算していくわけです。自分の言うことを聞かせるよりも、金属の声を聞きながら、対話するように成形していきます。


平成6年 第41回日本伝統工芸展高松宮記念賞受賞の「赤銅銀打出象嵌花器(しゃくどうぎんうちだしぞうがんかき)」

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新しいものへのあくなき挑戦が伝統である

国谷

新しい方法に挑まれたきっかけはあるのでしょうか。

前田

私の出身地の石川県は、金沢21世紀美術館ができ、前衛的なイメージもありますが、元々保守的な土地柄だったと感じます。私が工芸を勉強した頃は、日本の伝統的な工芸の復興に尽力した方々の価値観が残っていて、金沢生まれの松田 権六(東京美術学校教授 蒔絵師。人間国宝。文化勲章受章者)先生がご存命の頃でした。そんな特有な気風の中、厳しく教えられました。

その後、金沢や富山で活動していましたが、縁があって東京藝術大学に来てから、自分の考えも変わっていきました。ここには物を作る人間が勉強する、学ぶ場としてはいい空気感があると思います。極端に言うと、技法的な適格なアドバイスとか情報がなくても、ここにいるだけで、空気感で作品が作れそうな気がしますよね。誰もが意欲的に新しいものを作っている。新しい表現を模索しています。

国谷

「伝統」と「新しいもの」とは、ある意味真逆のことのように思えます。

前田

はい。そう思えますが、先人の作品を見ると、単に伝統を継承してきただけではない。常にクリエイティブに新しいものに挑戦し、模索して、時代とともに移り変わってきたことが分かります。現状に固執することに何の意味もない。自分も学生も常にクリエイティブでありたいですね。

国谷

伝統っていうと継承のみと捉えがちだけれど、そうではないと。

前田

そう。伝統工芸は、ただ技術や素材や形式を継承するだけでは私はつまらないと思いますしね。

国谷

新しいものを作るには、基礎となる技術を身に付ける地道な勉強が必要なわけですよね。

前田

例えば手で何かを作るのが上手な人のことを「職人さん」と表現することがあるじゃないですか。一級技能士だとかいろんな名称がありますけど、それはやっぱり人間が習ったりトレーニングしたりしてある程度のレベルに達したっていうことですよね。だけど僕らはそのレベルでものを作っちゃいけないわけです。そこから先の、新しいものを作る。手が動いたり知識があるっていうのは当然身に着けておくスキルだけれど、そこから先が問題なので。作るだけであれば、習えば誰でも作れるので。

国谷

いやいや、誰でも作れるとは思いませんけれど(笑)。

前田

向き不向きはありますね。


金属板をしっかり支えるため、親指の付け根に筋肉がつくのだとか

 

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